「司法試験受験後から合格発表までの過ごし方」 written by 76期司法修習生 佐藤 和樹
1 はじめに
今回は、「司法試験受験後から合格発表までの過ごし方」をテーマにお話しをさせて頂きます。
司法試験受験後は、無事に司法試験を受験し終えた安堵感と合否がわかるまでの不安感が混在していることでしょう。そのため、司法試験受験後から合格発表までの時間を、漠然と過ごしてしまう方が多いと思います。
ですが、司法試験受験後から合格発表までの時間は、合否いずれの結果にかかわらず、大変重要な時間です。
そこで、今回は、私自身の経験も踏まえ、「司法試験受験後から合格発表までの過ごし方」についてご紹介したいと思います。
2 サマクラ・オータムクラークに積極的に参加しよう
法律事務所のサマークラーク(通称サマクラ)やオータムクラークに積極的に参加しましょう。
サマクラやオータムクラークは、法律事務所側にとって、採用活動の一環です。1人でもよい人材を確保するために、サマクラやオータムクラークを実施しています。多くの事務所は、数日間(1週間前後が多い)かけて、司法試験受験生を事務所に招き、実際の事件記録の検討(いわゆる起案)を課題として出すと共に、その人が事務所の雰囲気に合うかどうかを見ています。
実際、法律事務所によっては、サマクラやオータムクラークに参加した司法試験受験生に優先して採用情報を提供し、採用活動を水面下に進めている事務所も少なくありません(実際、サマクラやオータムクラークを踏まえた採用活動をしている事務所は、公募(ひまわり求人や事務所HPにて採用情報を掲載すること)にて人材を募集する際、サマクラ等への参加の有無を聞くことが多かったです。)
受験生としては、実際の法律事務所の雰囲気や実務を知る大変よい機会です。また、サマクラやオータムクラークの際に、日当(日額1万円前後)を出している事務所も多いので、経済的なメリットもあります。さらに、サマクラやオータムクラークに参加する司法試験受験生との交流を深めることもできます。
このように、サマクラやオータムクラークに参加することは、メリットしかないと言えるでしょう。
詳細は、別の記事(弁護士事務所への就職活動)にてご紹介しますが、司法試験受験後は最低でも1つの事務所には、サマクラやオータムクラークに参加することを強くお勧めします。
3 再現答案を作成しよう
司法試験受験後は、合否が定まらず、勉強をするにもなかなかモチベーションを維持することが大変かと思います。
また、再現答案を作成した方がよいといっても、司法試験の問題を改めて振り返るのは、大変な作業でしょう(私自身も合格発表前に、改めて自分が解いた司法試験の問題を振り返るのは苦労しました)。
では、なぜそのような苦労をしてまで、再現答案を作成するメリットがあるのか。
それは、合否にかかわらず、自分がどのような答案を作成したのかについて忘れないようにするためです。
再現答案とはいえ、完全なフル答案を再度作成する必要まではありません(もちろん、フル答案を作成しておくに越したことはありませんが)。
再現答案を作成する際のポイント
①いかなる論点があり、②どのような規範を定立し、③どのような事実を拾ったのかです。
この3つの点を忘れないようにするために再現答案を作成すればよく、箇条書きやメモ書きでも問題ありません。
さらに、再現答案を作成する際には、某予備校等が法務省の出題趣旨等よりも早く、解答速報たるものを公開することがあります。ですが、再現答案を作成する際には、あまり意識する必要はありません。
あくまでも、再現答案は、自分がどのような答案を本試験当日に書いていたのかを忘れないようにするためであり、正誤を確認する目的で作成しているわけではないからです(そもそも論文試験においては、採点表等が公開されているわけでもないため、配点の程度を確認することはできません)。
仮に合格できた場合は、多くの予備校が司法試験合格者を対象に再現答案の募集を行うことが多いです。その際、事前に再現答案を作成しておけば、楽に提出をすることができます。
仮に不合格であった場合は、なぜ点数が伸び悩んだのか、どの論点どの事実を拾うことができなかったのかにつき、再現答案が手がかりになります。
このように、いずれの結果であっても、再現答案を作成することには、メリットしかありません。
ぜひ、司法試験受験後は再現答案を作成しましょう。
4 合格後の司法修習を見据えて
司法試験合格後は、司法修習が始まります。
司法修習は、A班の場合は、
①和光での導入修習
②実務修習地ごとの分野別実務修習(裁判(民事・刑事)、弁護、検察)
③和光での集合修習
④実務修習地ごとの選択型実務修習
⑤2回試験という流れになります
※B班の場合は、選択型実務修習後に集合修習
司法修習の内容に関する詳細は、別の記事(司法修習の内容)にてご紹介いたします。
司法修習では、司法試験で学んだ実体法や手続法を理解していることが前提となります。ですので、司法試験受験直後の知識が洗練されている状態から、なるべく知識や理解の程度を落とさないようにしなければいけません。
そのためには、司法試験受験後から合格発表までの時間も勉強を続けることをお勧めします。
では、どのような勉強をすればよいのか
まず科目としては、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法を重点的に復習しておきましょう。そして、勉強の仕方としては、(司法試験の勉強の際と大きな違いはないかとは思いますが)すべての条文に目を通すことが大切です。
特に民事訴訟法や刑事訴訟法は、司法試験との関係で出題頻度の低い条文(例えば、民訴法では弁論準備手続き等に関する条文、刑訴法では公判前整理手続き等に関する条文)についてはあまり目を通していない受験生が多いかと思います。
ですが、司法修習で体験する実務では、上記条文に関連する手続きが主になされます。その都度、条文を確認すればよいとは思いますが、事前に条文の理解があるのとないのとでは理解の差は歴然です。
これらのことから、比較的時間の余裕のある司法試験受験後から合格発表までの時間で、少なくとも上記科目に関する条文には目を通し、ある程度の理解を深めておくとよいです。
また、上記科目の他に、民事執行・保全法について勉強をしておくことをお勧めします。
司法試験で学んだ民法と民訴法は、権利の有無を確定させる規律であるのに対して、民事執行・保全法は、実際に権利を実現する際の規律です。
司法試験受験生の多くは、民事執行・保全法について十分な理解を有していないことも少なくないですし、新しい法律を学ぶという意味でのリフレッシュも兼ねて、ぜひ民事執行・保全法を学んで頂ければと思います。
5 最後に
以上のように、司法試験受験後から合格発表までの時間でやるべきことは数多くあります。合否はともあれ、上記期間をどのように過ごすかがとても大切です。
ただ漫然とした日々を過ごすのではなく、一歩先を見据えた時間を過ごして頂ければと思います。